向こう側なりの完全さ、の話。

あたしの世界は、なんて狭い。
太くも細くもなく、ただただ狭い。


いつも身につける指輪やらピアスやらを
「これ、かわいいね」と初めて目にしたかのごとく、
毎回 丁寧に褒めあげてくれる
あなたのその姿の向こう側には。


愛くるしさには、苦しみしかないのと同じように
その狭さの温かみには、
向こう側なりの完全さがあるだけなのです。

あたしのシグナル、の話。

あたしは、あたしにとっての本物を見つけた時、
笑顔の代わりに涙をこぼすの。


そして、その涙が温かいことを
頬が確認してようやく
あたしの口元は安心していいのだと思い知り
ゆっくりと重い口角を上げるのです。

あなた柄のマフラー、の話。

ああ、間に合わなかった。
それとも、間に合った?
最後のひと絞りの詩ことばが
あなたの耳に何とか ぶら下がるぐらいには
あなたは、まだあたしの中にいてくれている。


ようやく その柔らかい風の中で
そよそよと寄り添う感覚が手に入り、
あなたのことをあんなに近くに感じながら、
ひと駅分の木をくぐりぬけ、歩んだのに、
あたしの気持ちは たった数日で染め直され
今の心模様にピシッと合う
そんな世界に半分以上 奪われている。


それでも、あなたの奏では
変わらず涼し気に空気を温め、
耳の手前を飛び越え 一気に
耳の奥底を占めるクッションに
ストンと着地し続けている。


あなたは変わらないのに、
あたしは刻々と変わってしまう。


そんなあたしが、
また あなた柄のマフラーに
顔をうずめたくなったら、
あなたはそこにいてくれますか。


佐井好子さんへ