あなた柄のマフラー、の話。

ああ、間に合わなかった。
それとも、間に合った?
最後のひと絞りの詩ことばが
あなたの耳に何とか ぶら下がるぐらいには
あなたは、まだあたしの中にいてくれている。


ようやく その柔らかい風の中で
そよそよと寄り添う感覚が手に入り、
あなたのことをあんなに近くに感じながら、
ひと駅分の木をくぐりぬけ、歩んだのに、
あたしの気持ちは たった数日で染め直され
今の心模様にピシッと合う
そんな世界に半分以上 奪われている。


それでも、あなたの奏では
変わらず涼し気に空気を温め、
耳の手前を飛び越え 一気に
耳の奥底を占めるクッションに
ストンと着地し続けている。


あなたは変わらないのに、
あたしは刻々と変わってしまう。


そんなあたしが、
また あなた柄のマフラーに
顔をうずめたくなったら、
あなたはそこにいてくれますか。


佐井好子さんへ