鑑賞ラヴレター

あなた柄のマフラー、の話。

ああ、間に合わなかった。 それとも、間に合った? 最後のひと絞りの詩ことばが あなたの耳に何とか ぶら下がるぐらいには あなたは、まだあたしの中にいてくれている。 ようやく その柔らかい風の中で そよそよと寄り添う感覚が手に入り、 あなたのことをあ…

シーラカンスと3つの心臓、の話。

言葉、は相手との距離を縮めるために吐く。 でも、あなたを想う時はその反対で、 あなたとあたしに違いがあることを確認したくて、 今 ここに言葉を置き並べてみる。 あたしがそっと大切に忍ばせている ギザギザで魔を数滴含んだ動物園を。 あなたは なぜあ…

やっぱりほど遠い、の話。

いつもとはなぜか違って 今は少しだけ近くに感じられるの。 あたしにも いつかは来るのかなと どこかで予感していたその瞬間が 今こうやって柔らかく降り注いでいて。 そのことに心がはしゃいでいるあたしは やっぱり あなたには ほど遠い。 どこからか立ち…

血の通ったドローンを、の話。

あなたはきっと持っている。 体肉をほんの少しつまみ、 それを粘土にして作り上げたドローンを。 うろたえてしまうほど ひんやりしてるけど、 血の通った悪気のないドローンを。 それはいつだって空気の一部。 そして、それはいつだって あたしたちが黒丸に…

ねえ、バスキア、の話。

ねえ、バスキア。 夜の静けさは不安になるほど長いのに 朝の静けさはほんの一瞬で。 鳥の群れが一斉に飛び立つ直前の瞬間を 薄白い月がまだ浮かび残るひとときを あなたはずっと身にまとっているのかもしれない。 あなたの色彩は鮮やかで濃厚。 あなたの描く…

ハロー、世界、の話。

最近、ふたたび開始したのは、 本を読みながら世界を巡ろうという計画。 今回は、南アフリカかオーストラリア、 いずれにしても南半球から始めようと。 でも、最後の最後までどちらにしようか決められず、 南アフリカ出身で現在オーストラリアに住んでいる作…

すごろくを作れば、の話。

世界すごろく、とは苦し紛れに名を付けましたが、 いざ考えてみると、案外いいネーミングでした。 すごろくを作っているのはあの人ではなく、 あたしだという決め事があるだけで。 コマを進めるのも、あたしの強い気持ちだったり、 隣の人が向かう先に気まぐ…

もやもやを持てないもやもや、の話。

あなたという小説に登場する ルーシーという娘さんは、 南アフリカのアパルトヘイト廃止直後を たくましく生きる女性だけれど、 その姿を、あたしは あたしが望んで立ち寄る街の一角で よく見かけたことがあるような気がしています。 その彼女は「善い人」を…

文学論をひとり遊び、の話。

小説家である著者が生み出した架空の小説家が、 作品の中で意気揚々と、著者本人が普段口にする 文学論や作家論を登場人物相手に戦わせる。 という劇を著者がひとりで演じ分けているのです。 そういうひとり遊びの楽しさを あたしも少しばかり知っている気が…

すべては もうあたし側で、の話。

あたしの身体は、 あまりにもその世界に溶け込み、 そこで起こる出来事に何ひとつ疑問を持ちません。 あたしは あたしの境界線を保つのが下手ですから、 虎が算数の宿題をお手伝いしても、 片耳を切った男性が同じ耳を切ろうとした時に、 刃が通った感触がな…

3つのまたしても、の話。

またしても、またしても、あたしは綴る。 あの子が必ず踏んでしまう橋の板は、 あたしが その世界で必ず遭遇してしまう 淡い桃色づいた透明なバンビと同じ柄をしている。 だから、あたしも必ずその板を踏むでしょう。 あの子は あたしじゃないけれど、あたし…

魂の甘焦げた汗、の話。

この小説は ひとたび読み始めたら、 最後まで読み通さないといけません。 途中で中断されることがありましたら、 また一から読み直してください。 その代わり、物語のどんな箇所にも 必要以上に足を止める必要もありません。 そこに書かれている出来事も話し…

3という数字は大きいのか小さいのか、の話。

3、という数字は大きいのか小さいのかについて、 いつまでも答えを決めずに悩んでいたいから、 それを百遍でも試し続けるのです。 一文字の漢字の契りのもと、時代も国籍も越えて、 身を寄せ合いながら並べられる名前たちと物語たち。 あまり見かけたことが…

キャスティングすら、の話。

覚悟を決めないと、キャスティングすらしてもらえない。 どんなセリフを口にすればいいかも分からない。 それは夢追い人、という役だとしても。 ゼロという点を打つ勇気、については、 ここにいる人は全員、熟知しているようだった。 あなたたちには、そんな…

年齢計に測定される、の話。

ずっと読んできたあなたの文章。 今回はじめて、書かれている内容に あたしの様々な積み重ねが少しばかり追いついた感覚に。 身長計や体重計のように、年齢計があるとしたら、 あたしは今日その測定を受けたのかもしれません。 未知とも憧憬とも共感とも違う…