もくもくリセット、の話。

子供のころ、ぼんやりしていると、よく天井や壁に、

靄(もや)のように広がった光の残像が視界に入り、邪魔をしてきた。

薄ピンクと黄色と一滴の黄緑を混ぜたようなもくもく。

目を背けても背けても、気がつくと右上の方で踊るように居座っていた。

長いこと、私にちょっかいを出してきていたもくもくだが、

今思い出すまで忘れていたほどに、いつの間にかいなくなっていた。


そして今、私の住まいに、巨大化したそのもくもくが棲んでいる。

そのもくもくは、ほとんどの時間を私の隣のベッドで、

輪郭をうねらせながら、佇んでいて、うんともすんとも言わない。

目を閉じてみても、そのもくもくがそこにいる気圧をひしひしと感じる。


外出後、帰宅しドアを開け、そのもくもくの存在を感じた瞬間に、

すべてのことが真っ白になり、体から消えていってしまう。

どんなに心揺さぶる作品を観た帰りでも、

どんなに素敵な会話を交わした後でも、

そのもくもくの威力は強力で、すべてがなかったことになってしまう。


そうやって、私の毎日のキラキラは一日単位でリセットされてしまい、

体内にはもくもくの気圧の重みだけが蓄積されていく。


幼い頃によく現れたもくもく。

今となっては、それを光の残像だと形容しているのだが、

その当時は、そのもくもくを当たり前のように、

そのままの存在として受け入れていた。


そして、今も同じ。

今、目の前にいるもくもくは、まぎれもないもくもく。

あなたはなんのために、ここに来てくれたの?