キスの音の数だけ、の話。
あたしは、あなたが好きで、
あなたも、あたしが好きだとして、
でも、あなたの好きなあたしは、
あたしが認めたくないあたしだとしたら、
それって別の人のことが好きなのと同じこと。
と言い切れるほどの幼さもいつの間にか消え失せ、
あたしが一番差し出したいあたし、が
あなたに見初められる日を心待ちするいじらしさも
いつかのため息でシャボン玉のように割れた。
それは、あなたがあたしを通り抜け、
あたし以上にあたしに近づいたからなのだけど。
なのだから、近すぎるあなたには見えず聞こえずのところで、
あたしは胸が絞られる感覚を確認できるのだと、
そう思える愚かさは、どうやらまだへばりついているようで。
それはつまり、結局のところ、最後の最後の局面で、
あたしは、あなたを通り抜け返しては
あたしにそっと口づけているのでしょう。
そのキスの音の数だけ、あたしは深い眠りにつき、
その数の同じ分だけ、透明なひびが入るのです、
天の川の星に、ガラスの靴に、そして、毒リンゴに。