月明かりに「下書き」の影絵を、の話。

あらゆるところに「下書き」を溜め込んでいる。


ブログも、SNSも、携帯のメモ機能も、日記帳も。
そこは、ゴミ袋なのか、宝箱なのか、
はたまたブラックホールなのか。


いずれにせよ、あたしの本当のもやもやには、
地上で花咲かすことを選ばせずにいたら、
すっかり立腹したのか、地面の中で根を張り始めた。
とうに冬の季節は過ぎたというのに、
一向に冬眠をやめないのでいるので、
それを更なる口実に「下書き」たちには、
外の景色を知らないままにしている。


それでも、
自分のために書いていいんだよ、と
春のさえずりが聞こえ、あるいは、
春陽が雪溶けをそっと後押しするこんな季節には、
つい気持ちが大きくなり、
余計なことを書いてしまいたくなる。
しかし、いざ綴り出すと何だか
そのほろ酔い感覚も急激に冷めるので、
地面の下でじっと動かずにいる
「下書き」たちの様子をそっと覗いてみる。


地面の中は生暖かいはずだが、
「下書き」たちは最後の意地を見せ、
当時の空気を含んだまま、
瞬間冷凍状態を固持している。
その香りなら、解凍せずとも鼻が再現してくれるが、
その再会は一瞬に留めておくのが賢明だろう。
やがて「下書き」が今の空気に触れ、
もくもく、と異臭が込み上がってくる。


そんな「下書き」を思い切って太陽の光にかざし、
当時の空気と今を調合してみる勇気がないあたしは、
いつも「下書き」を今に馴染ませる作業は
そっと夜まで先延ばしにする。


解凍させるでもなく、はっきりと姿を確認するでもなく、
月の光に照らされて映し出される「下書き」の影絵を楽しむぐらいが
今、にしか身体を持てないあたしには、お似合いなのだ。