沈みゆく光景ばかりをスケッチ、の話。

この世に心の特効薬なんかなくて、
それに近しい音楽ですら、
聞き出した途端、終わってしまう瞬間が
待ち受けていることに怯えてしまうから、
余計に不安が増してしまう。


前向きなことを書こうと思えば書けるけど、
あたしにとっては結局のところ無臭無味で、
多分そこに圧倒的な事実は見当たらない。
でも、本当は誰にも見せたくない、
見せない方が余程楽に生きていけるであろう
黒みには、なぜか血の通ったあったかい真実が
宿っている気がしてならないのです。


そうこうして、沈みゆく自分を後押しすると、
空気を求め嫌でも自然に上へともがき始める。
海の底は、音がない時の音がして、
冷たいのに生温かくて、気持ちいいのに。
そこに居続けるには適していない
この身体がただただ憎たらしい。


その沈み切れない苦し紛れの諦めの果てに、
無力に覆われた身体が、自分の意志に反して、
エレベーターのように持ち上がるその一瞬に、
ようやく、一粒の前向きさを覚える。
誰にも認められず、こっそり流れる
一筋の涙のごとく、それは表立つことはない。


誰もが読みたくない
誰もが書きたくない
誰もが知りたくない
でもそこにあると示すことがきっと大切
そんな風に少しばかり信じ、
沈みゆく光景ばかりを綴るのは、
あたしが誠実さを見せられる
唯一の方法だからなのです。