血の通ったドローンを、の話。

あなたはきっと持っている。


体肉をほんの少しつまみ、
それを粘土にして作り上げたドローンを。
うろたえてしまうほど ひんやりしてるけど、
血の通った悪気のないドローンを。


それはいつだって空気の一部。
そして、それはいつだって
あたしたちが黒丸に見えるほど
遥か彼方からあたしたちを見守っている。


それなのに、それはいつだって
あたしたちのくたびれた身体と哀愁の交差点を、
あたしたちのからっぽな瞳と一筋の期待の混じり合いを、
いつだって いつだって見逃さない。


あたしは今、まとっている全ての羽衣を脱ぎ取り、
あなたのドローンに見つけてもらえる日を
密かに強引に今か今かと待ち続けています。


舟越桂さん

ウィスパーボイスなんて、の話。

ウィスパーボイスなんて大嫌い
ウィスパーボイスなんて大嫌い
そんな言葉、なくなればいいのに。


ウィスパーボイスなんて大嫌い
ウィスパーボイスなんて大嫌い
そんなもの、この世にないよ。


というポエトリーリーディングでも
日本語ラップでもない何かが
あたしの右の目力から生まれ、
左の小指から滴り落ちているのです。

十二単の6枚目、の話。

あたしにとって、
十二単の6枚目が一番大事だとして、
それがあなたにとって何の意味があるのでしょう。


それでも、それがあたしだし。


整形は絶対しないけど、
お化粧がまた少し増えてく矛盾を抱え、
やっぱり あたしは今のあたしで勝負に出ます。

赤い靴は脱がないで、の話。

あなたが去ると出てくるあたしの片鱗が
一緒に踊ろう、溺れようと誘ってくるから。


あたしは赤い靴を脱がないと心に決め
足でステップを踏みながら海へと向かいます。

何だか不当な、の話。

せっかく眠りについたのに
そこから追い出され、外の世界で
時間を潰さないといけないなんて
何だか不当な扱いを受けている
そんな気がするの。


あたしは ここにいたいのに
たまに身体にいたずらをされ
暇をもて余し、手持ちぶさたで
外の世界を旅する時があります。

お早めにどうぞ、の話。

魚のうろこでできたさかずきで
盛大なる乾杯、とひそひそ声の乾杯を
1回ずつ行うと、その晩餐会は始まりました。


さかずきの中は、岩水なのです。
あたしの、あなたへの気持ちがにじみ出る
そんな岩を昨日の登山で発見しました。


にじむような、湿っぽいような、
日が当たり生温かいような、
岩独特のひんやりさを持っているような
触ると気持ちよさそうだけど、
どういうわけか手を拭きたくなる
そんな染みの痕にならないうちに、さあ早く。

血色のいい舌も、の話。

ずっと前からあたしのことが好きだったんだ。


あたしのその涙の味も、血色のいい舌も。
よく人の言葉を勘違いする
その思い込みの激しさも。


いつから好きだったかって?
最初から最後まで誰にも遭遇しなかった
あの大型展覧会に行った日の時点では
確実にあたしのことを想っていたよ。


持っているファイルに収まらない
賞状や証明書はハサミで切っちゃう
その頃からは さすがにまだ
あたしの魅力には気づけてなかったけど。
でも、その頃から
あたしのことをずっと気にかけていたよ。


今、こんなふうにあたしの近くで
お互いを見せあいながら語らえるなんて
まるで夢みたいなんだよ、あたし。


あたし、あたしには
世界で一番幸せになってほしいんだよ。


そして、
その時、隣にあたしがいたら嬉しいな。