「案外、存在、と名付けてもいいな」、の話。

あなた、を想像するだけで。 普段はとろけそうで役立たずな あたしの輪郭は濃くなっていく。 あたしの肉体は空間のここからここまでを占めているのだと、 明確に指示された図面が脳内に投影される。 それは頼りなくちっぽけに見えることが多いけど、 時に「…

甘ったるい甘ったるさ、の話。

目を閉じながら、とことこ歩いていたら、 どういうわけか、ここに辿り着いていたのだけれど、 ここに残しておきたい落書きの中身は、 その道中に落としてきたみたいです。 何も書かなかった、という覚え書き。 を綴った後に、ふと気付いたのは、 あたしが求…

研究論文の後書き、の話。

あなたが あまりにも楽しそうにしているから、 あたしはあなたの研究に励みました。 脳内に専用のラボを用意し、 あなたを顕微鏡から望遠鏡まで使って観察しては、 限りなくあなたに近づける生活リズムを譜面に起こし、 来る日も来る日も、その楽譜を元にタ…

ハムスターをお手本に、の話。

毎度訪れる沼地を歩くような日々の終わりが見え始めたのか、 あたしは今回もまた、今日という日まで流れ着いた。 結局、こうやってあたしの鼓動がまだ動いていることを 確認できる日が来るのを待ちわびたり、あるいは、 心臓が止まってしまう不安に襲われな…

トッピングを添えた建設工事、の話。

いつか、好きな人を、 モニター越しに、スクリーン越しに、 液晶パネル越しに、水槽越しに。 一枚、の反対側から見守りたい。 その一枚があるだけで、 あなたは あたしにそわそわして、 鋭く挑発的な刺激と認めてくれる。 肝心なのは、向こう側の何かではな…

キャスティングすら、の話。

覚悟を決めないと、キャスティングすらしてもらえない。 どんなセリフを口にすればいいかも分からない。 それは夢追い人、という役だとしても。 ゼロという点を打つ勇気、については、 ここにいる人は全員、熟知しているようだった。 あなたたちには、そんな…

約束は、の話。

約束は覚えられている限り、続くもので、 人が何かを忘れてしまうことは 責められることではないから、 覚える、なんて能力は特に役に立たなくて、 もし いいことがあるとしても、 それは約束した相手が喜ぶ何かであって、 自分を慰めることには繋がらないで…

水鳥が気まぐれに、の話。

話したいことなんて話せたことないし、 伝えたいことなんて見つかったことがない。 あたしは いつも。 つい そんな不満を込めては、 流れゆく会話を濁し、淀ませる。 その汚れた川に映るあなたの顔を 水鳥が気まぐれについばむ時だけ、 あなたの口元は笑顔の…

年齢計に測定される、の話。

ずっと読んできたあなたの文章。 今回はじめて、書かれている内容に あたしの様々な積み重ねが少しばかり追いついた感覚に。 身長計や体重計のように、年齢計があるとしたら、 あたしは今日その測定を受けたのかもしれません。 未知とも憧憬とも共感とも違う…

みたび はじまりの記憶、の記録。

これまでの思い直しとは、少し違った記録です。それでも、今回もまた記録していくのでした。 (これまでの記録は「はじまり」カテゴリーで束ねられています) あらためて、また向き合いたいと思うたびに、めるみほしき さみあもにょる、というコトバの力を借り…

みたび はじまりの記憶、の記録、のおまけ。

記憶、の記録と合わせて、カテゴリーの大掃除をしました。 散乱していたカテゴリーの大半は、 むかしむかし、というおもちゃ箱に放り込み、 おとぎ話として読まれる日を待ちわびることとなりました。 その作業中に聴いていたのは、このアルバム。 最後の一手…

あなたの魔法の足、の話。

あたしの好きな人、はやさしくて。 耳が聞こえなくなるその直前まで、 全身を金魚すくいの網に見立て、 聴覚以外の感覚器も応援に駆け付けさせ、 あたしのがさがさ交じりで、ぼそぼそした ごにょごにょの行く末を見守ってくれるのです。 どんな音も言葉も、…

キスの音の数だけ、の話。

あたしは、あなたが好きで、 あなたも、あたしが好きだとして、 でも、あなたの好きなあたしは、 あたしが認めたくないあたしだとしたら、 それって別の人のことが好きなのと同じこと。 と言い切れるほどの幼さもいつの間にか消え失せ、 あたしが一番差し出…

笑顔の魔法を知らないから、の話。

楽しいことをまっすぐ楽しいと楽しめないあたしが、 身近に並べておきたいものは、間違いなく、 あたしを心の底から笑顔にする何かではなく、 全身が脈になってしまったんじゃないかってぐらいに、 生きていることを圧迫感で知らしめてくれる、そんな何かな…

届かない確認作業、の話。

世界は二番以降で彩られる。 一番好きなものなんて存在しない。 一番大切な話は聞いてもらえないし、 一番大事なことは決まって伝わらない。 それらはすべて手元に留まる。 あたしは自分が大切ではないから、 それらをわざわざ一番、と順位付けするのは あた…

その割には、の話。

恵まれなかったこの容姿やセンスに、 頭脳や気質や自信のなさを抱えている割には、 よくここまでやってきたものです。 それは、ただただ、周りの人たちが、 あたしが浸かっていていい居場所を どういうわけだか空けておいてくれて、 その場所から見上げる空…

見られない自分の背中、の話。

ほんとはね、全部ウソなのです。 ほんとのこと話しても、 あれもこれもあなたは全部 あたしの思惑とは違うかたちに、 グニャグニャにして飲み込むから、 だから、最初からウソを教えるのです。 そしたら今度は、言葉どおりに受け取るなんて。 あなたはあたし…

ギブ&ギブ、の話。

好きでたまらないから愛を注ぐのではなく、 どんなにどんなに気持ちを与えても、 嫌な顔ひとつせずに受け入れてくれるから、 好きでたまらないのです。 地球の底が抜けるぐらい、 ずっと一方的に愛を捧げて、 あなたをこらしめたいだけなのです。

あたし以外の女の子、の話。

あたし以外の女の子は、みんな可愛くて、 あたしがどんなになりたいと望んでも なることができない憧れの存在なのです。

切り刻まれた一瞬のかけらに、の話。

人との距離感がつかめず。うろたえる時の振動が、 足元の地盤を静かに揺るがしては表面を崩していく。 予期せぬかたちで声をかけてきては、 あたしの髪に手ぐしを一度だけ通し、 跡形もなく人混みに吸い込まれていったのはあなた。 取り残されたあたしの頭に…

会話のダストボックスに吸い込まれ、の話。

周りから聴こえてくる会話に耳をそばだてると、 どのやり取りも物語みたいに一風変わっていて、 同じ会話には一度も遭遇したことがない。 (だからこそナショナル・ストーリー・プロジェクトは 成立するわけであります) 共通するのは、お会計を割り勘するやり…

ホワイトデーに自主的な約束を、の話。

昨日のホワイトデー。 バレンタインにあげたことがないお方から ミルクキャンディしか入っていない 大きな大きな、大きいのに可愛らしい 木箱をもらいました。 今時ホワイトデーにキャンディをあげる方が まだ居てくださったなんて、それだけで、 あたしは救…

沈みゆく光景ばかりをスケッチ、の話。

この世に心の特効薬なんかなくて、 それに近しい音楽ですら、 聞き出した途端、終わってしまう瞬間が 待ち受けていることに怯えてしまうから、 余計に不安が増してしまう。 前向きなことを書こうと思えば書けるけど、 あたしにとっては結局のところ無臭無味…

落ち込みは性的なうずうず、の話。

電車とホームの隙間。 普段は何でもなく見えるのだけど、 たまに吸い寄せられるような気持ちになり、 何かの入口のように思えてくるのです。 でも、それは何かを終わらせたいとか、 きっとそういう深刻な話ではなく、 その狭い隙間をくぐり抜けるのは 窮屈で…

自分の身体を食べ尽くす、の話。

ぞくぞくするような気持ち悪さがたまらない快感を伴うのは、 身体の外側で延々と起きるめまぐるしい出来事より、 身体の内側に広がりゆく無限の世界で起きること。 自分の身体を自分で食べ尽くすことは、 世の中で一番大切にしていい行為なのに、 背徳感や裏…

愛犬が亡くなった、の話。

また起きた。どうしてなのか。愛犬が急死した。 家にいたのに、その死に目に会えなかった。 お母さんだけがその辛さを引き受けないといけなかった。 何より、何の悲しみもちっとも舞い降りてきてくれない。 前回もそう。あたしがお風呂に入っている時に、 ま…

出来事なんてもったいない、の話。

あたしに悲しい出来事なんてもったいない。 どうせ悲しみ切れないのだから。 あたしに楽しい出来事なんてもったいない。 どうせ楽しみ切れないのだから。 感情という感情が皮膚から滲み出すのを恐れていたら、 いつの間にか感情を露に出来なくなりました。 …

空っぽな可愛さを添えて、の話。

世の中に正しいことなんて何一つないのに、 人の言うことにいちいち傷付いてしまうし、 人の言うことにいちいち勇気付けられてしまう。 あたしは人を傷付けたくなければ、 人を不必要に勇気付けたくもない。 ただの空っぽな可愛さを添えて、 そこに立ってい…

和傘をひらいてはとじる、の話。

あたしがあなたを好きになる以上に、 あたしはあたしを好きでいないと、 あなたはあたしを好きになってはくれないから。 でも、あたしがあたしに夢中になってしまえば、 もしかしたらあなたじゃなくてもいいのかもしれない、と、 そのことに気付いてしまうこ…

とじた和傘を少しひらいて、の話。

はたまた、あなたを心に残しておきたい あたしの欲望のためなのでしょうか。 そうなのだとしたら、 あたしはあなたを通じてしか 浮き彫りにならないあたし、が見つめることで はじめてそこにいると確認できるあなた、にしか 生かされていないのかもしれない…